今日、ドイツでは欧州ナンバー1国を決めるEURO2024が開催されているが、治安当局はサッカースタジアムなどを狙ったテロを警戒し、厳重な対策を敷いている。最近でも、3月にロシア・モスクワ郊外のコンサートホールで発生した襲撃テロ(140人以上が死亡)の実行犯たちと同じイスラム国系組織のメンバーが逮捕されるなど、華やかなサッカーの祭典の裏では非常に緊迫した状況が続いている。 一方、日本との関係で懸念されるのが、7月下旬から行われるパリオリンピックにおけるテロだ。パリオリンピックの開会式が近づく中、フランス国内では主要駅や観光施設などを中心に警戒が広がり、治安当局は厳重な対策を敷く構えだ。欧州ではフランスやイタリアでテロ警戒レベルが最高水準に引き上げられており、オリンピック開会期間中の緊張感は避けられないだろう。 オリンピックの競技種目であるサッカー男子では、日本はグループDに入り、パラグアイ、マリ、そしてイスラエルと対戦する。日本とイスラエルの試合は7月30日、現地時間21時(日本時間31日午前4時)のキックオフだが、イスラエルを巡っては国際的に批判の声が広がっており、イスラエル権益を標的にしたテロの可能性が現実的なリスクとして考えられる。 2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザ地区を実行支配するイスラム主義組織ハマスなどがイスラエル領内に奇襲攻撃を行ったことが発端となり、イスラエルはパレスチナ側へ無差別的な攻撃を続けている。これにより、レバノンやイエメン、シリアやイラクに点在するイラン系の武装勢力が反イスラエル闘争をエスカレートさせ、一部のイスラム過激派組織はネット上でイスラエルを狙ったテロを呼び掛けている。また、欧州各国でもイスラム国系組織やハマスのメンバーが逮捕されるケースが発覚しており、イスラエル権益を狙ったテロへの懸念が広がっている。 1972年9月、ドイツ南部ミュンヘンでオリンピックが開催されている中、選手村にあるイスラエル選手団の宿舎にパレスチナの過激組織「黒い9月」のメンバーたちが襲撃し、イスラエル人選手ら11人が犠牲となるテロ事件が発生した。 オリンピックは平和の祭典であり、そのような場所でテロが起こるなどあってはならないが、今日のイスラエルを取り巻く世界情勢は、パリオリンピックが第2のミュンヘンオリンピックになるリスクを我々に提示している。政治とスポーツは本来分けて考えるべきだが、日本とイスラエルの試合にはどうしてもこのリスクが付きまとう。 ◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。