木村拓哉『Believe』“おいしいところ” を脇の3人に持っていかれた「キムタクドラマ」の限界【ネタバレあり】

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6月20日(木)に最終話(第9話)が放送され、今期民放ドラマトップの高視聴率を叩き出して有終の美を飾った木村拓哉主演『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)。 世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)は第1話が11.7%でスタートし、第3話から第8話までずっと9%台で推移していたが、最終話で一気に13.2%にジャンプアップ。しかも、最終話は今期トップを走っていた日曜劇場『アンチヒーロー』(TBS系)を上回り、民放1位の記録となった。 今のご時世、世帯視聴率はテレビ各局もさほど気にしていないと言われるが、それでも木村としては「視聴率男」の面目躍如となる結果となり、一安心かもしれない。 だが、正直な感想として、キムタク演じる主人公は最終話でそこまで目立った活躍はなく、竹内涼真、小日向文世、斎藤工の3人に “おいしいところ” を全部持っていかれた感が否めなかった。 ■【ネタバレあり】クライマックスはキムタクの “大演説” 木村が演じる主人公は、大手ゼネコンの土木設計部長で、橋の設計を手がける狩山陸。 しかし、狩山が設計した建設中の橋で、死傷者を出す大規模な崩落事故が発生。設計ミスが原因ではなかったにもかかわらず、社長(小日向)に懇願された狩山は会社を守るために真相を隠ぺい。全責任をかぶり、実刑を喰らってしまう。 けれど、妻(天海祐希)が重度のがんを患い余命宣告されていることを知り、無実の罪を晴らすために刑務所から脱獄して……というストーリーだった。 最終話、狩山は再逮捕されるも、結果的に橋の崩落事故で問われていた業務上過失致死傷について再審を勝ち取り、狩山たちの信念の勝利となりハッピーエンド。 キムタクにとってクライマックスとなった見せ場は、裁判で被告人として証言台に立ったシーンだろう。 「橋は、土地と土地を、人と人を、つなぐ構造物です。それ以上でもそれ以下でもありません。その橋を人が渡れば街ができます。経済が生まれて、文化が生まれます。目の前に川が流れていたなら、橋をかければいいんです。その橋は人にしか造ることができません」 狩山はこのような証言をしていた。 ……率直に言って、きれいごとやかっこいい言葉ばかり並べる相変わらずの “キムタク節” 炸裂といった感じで、感動できず。なんというか、“被告人の証言” のはずなのに、“正義の大演説” といった感じにしか聞こえず、萎えてしまった。 ただ、木村の名誉のために断わっておくが、きっとこれは彼のせいではない。「キムタクをかっこよく見せなくてはいけない」という使命感に駆られた、脚本家や制作陣の責任だろう。 ■竹内涼真、小日向文世、斎藤工が “おいしいとこ” 取り? こうして主人公の見せ場は不発に終わったのだが、総合的に考えると最終話はけっこう見応えがあり、おもしろかった。 それは、竹内涼真が演じた刑事・黒木正興、小日向文世が演じたゼネコン社長・磯田典孝、斎藤工が演じた弁護士・秋澤良人という3キャラクターが、それぞれ非常にかっこよかったからだ。 まず紹介したいのは刑事の黒木。物語中盤では逃亡した狩山を追いつめていくハンター的な立ち回りをしていた。だが、実は崩落事故(事件)の真相を明らかにしたいという狩山と共通の目的があり、協力関係を結ぶようになる。 いつもニタニタと軽薄な笑みを浮かべる気味の悪いキャラクターだった黒木が、最終話で狩山にこう伝えた。 「いいか、騙されるな。この人(警察の管理官)はあんたをエサにして上に恩を売りたいだけなんだよ。だから検察では言いたいことを言え! 声をあげろ!!」 極めつけは、「あんたは間違ってないよ。あんたは自分の想いに正直でいればいい」と狩山のすべてを肯定してくれたのだ。それまでのキャラクターとのギャップで目頭が熱くなった。 続いてはゼネコン社長の磯田。実は都知事と組んで橋崩落を仕組んだ張本人であり、要するに黒幕一味だったのだが、最後は改心。再審で橋崩落事件への関与を認め、自身が有罪判決を受けて刑務所行きになるという結末を迎えた。 すでに出所していた狩山が面会に訪れ、磯田と久しぶりの対面。狩山が最後に「あなたを信じたことは後悔してません」と頭を下げて去っていった後、磯田は「そういうところが、嫌いなんだよ」と独りごちるのだ。 磯田は犯罪に手を染めてしまったわけだが、彼には彼なりの正義や信念があり、それが狩山とは相いれなかったのだろう。 いずれにしても、本作でもっとも “人間の醜さ” を体現したキャラで、最後の「嫌いなんだよ」のセリフも人間味が凝縮されていて、考えさせられる深い言葉で素晴らしかった。 ■かっこよく見せたいのにかっこよくならないジレンマ… 最後は弁護士の秋澤。極論を言うと、最終話の主役は彼だった。狩山の担当弁護士だった秋澤は「私は味方です」と言っていたわりに、ストーリーが進むにつれ不穏な言動が目立つようになっていく。 というか磯田と密通し、彼らに取り入るような言動が多くなっていたため、狩山を裏切っているように見える演出がされていた。 しかし、すべては狩山を助けるためにおこっていたことで、磯田に近づいたのも事故(事件)の真相を明らかにするためだったと、最終話で明かされた。 しかも秋澤は、かつて自分が弁護した人物が自殺したことを悔いており、それが狩山を徹底的に信じて助けようとするモチベーションになっていたという、胸アツなバックボーンも判明。 つまり、悪人かと思われていた人物が、最初から「私は味方です」と宣言していたとおり、“いいもん” だったという裏の裏をかく展開。最終話の裁判シーンでは、自信に満ちた表情で堂々と狩山を弁護しており、その雄姿がこのうえなく頼もしく見えた。 ――このようにキムタク演じる主人公はいまいちだったものの、脇を固める名優3人のおかげで最終話は大いに盛り上がったのである。 「キムタクドラマ」は、彼をかっこよく見せなくてはいけないという “縛り” がきつすぎるがゆえに、本当の意味で主人公をかっこよく描くことが難しくなっているジレンマがあり、ほかのキャストに頼らざるを得ないのではないか。 これが「キムタクドラマ」の限界なのかもしれない。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

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