鹿児島県警の前生活安全部長、本田尚志容疑者(60)が内部文書を漏えいしたとして起訴された。 同容疑者はその動機を「本部長の隠蔽」への告発と訴える。捜査の過程でウェブメディアが捜索を受けたことに批判の声も上がるなど、事件は異例の展開をたどった。 札幌市のライター小笠原淳さん(55)の元に4月3日、差出人不明の茶封筒が届いた。小笠原さんによると、「闇をあばいてください。」と印字された文書のほか、当時公表されていなかった県警枕崎署員の盗撮事件や霧島署員のストーカー事案に関する書類など計10枚が入っていた。 小笠原さんに文書を宛てた理由を、本田容疑者はその後、「本部長が不祥事を隠蔽(いんぺい)しようとしたため」と説明。面識はなかったが、「県警を糾弾する記事を書いていて、取材してくれると考えた」という。弁護人も「内部通報のようなもの」と主張する。 捜査関係者などによると、本田容疑者は文書の問い合わせ先として、県警前刑事部長の名前や電話番号を記載。盗撮事件で「隠蔽を指示した」のも、本部長ではなく前刑事部長と記していた。 本田容疑者は、自分が送ったと発覚するのを避けるためと話しているという。だが、ある捜査幹部は「無関係の刑事部長を巻き込んだのは不可解で、正義感から告発したか疑問」とし、公益通報には当たらないとした。さらに「警察庁や他の公的機関に相談するなど、ほかに方法はあった」と批判した。 事件では、本田容疑者逮捕に至る経緯も異例だった。発端は、ニュースサイト「ハンター」に昨年10月、県警の内部文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」が掲載されたことだ。県警は今年3月、計100件超の事件捜査に関する文書が流出したと発表。4月8日には地方公務員法違反容疑で曽於署の巡査長を逮捕した。 関係者によると、県警は同日、関係先としてハンターの代表中願寺純則さん(64)の自宅を捜索。パソコンとスマートフォンを押収した。その際、小笠原さんと共有していた資料が見つかり、本田容疑者の逮捕につながったとみられる。 捜索を巡っては、新聞労連が抗議声明を発表するなど、批判の声も上がる。中願寺さんも「取材源を暴く行為。報道や告発者に対する圧力だ」と強調している。