【社説】脳死と臓器提供 日頃から家族と語りたい

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臓器移植法が1997年に施行されてから、臓器提供を前提とした脳死判定が千例を超えた。臓器移植を受けた人は4300人を数える。 日本では臓器提供の場合に限って脳死を人の死とする。2010年に改正法が施行され、本人の意思が不明でも、家族が承諾すれば臓器提供が可能になった。 死に対する考えは時代とともに変わる。脳死となった人の家族には葛藤があっただろう。臓器を提供する人と救われる人、二つの命の重みを思わざるを得ない。 臓器提供は増える傾向にあり、今年は過去最多のペースで進む。それでも移植を待つ人に比べ提供数は少なく、移植がかなうのは希望者の3%に満たない。困難な状況は続いている。 22年の提供者は人口100万人当たり0・88人だった。米国45人、韓国8人など海外との差は大きい。待機する時間が長く、待つ間に亡くなる人も多い。 臓器移植を自国で行う国際原則があるものの、海外での手術を目指す人は絶えない。海外での臓器移植を無許可であっせんしたとして、2月にNPO法人の理事が警視庁に逮捕される事件もあった。 脳死や臓器移植への国民理解を広げない限り、現状は大きく変わらない。 臓器を提供するかどうかは個人の死生観に関わる。決して他者から強制されてはならない。一人一人の熟慮が尊重されるべきだ。 内閣府が21年に行った調査によると、自身の臓器を「提供したい」「どちらかといえば提供したい」と答えた人は4割だった。実際に運転免許証などで意思表示している人は全体の1割にとどまる。 意思表示しない理由に、多くの人が不安感や抵抗感を挙げる。移植手術の情報が浸透していないからだろう。 国や自治体、臓器提供の橋渡しをする日本臓器移植ネットワーク、医療施設などは多様な手段で情報を分かりやすく発信してほしい。 提供したいと考える人が、確実に手術できる医療体制も整える必要がある。 脳死の臓器提供について国の基準を満たす医療施設は、大学病院をはじめ全国に約900カ所ある。うち半数以上は実際の提供体制が整っていない。手術は70施設程度に集中しており、九州の中でも地域差が大きい。 臓器提供に関わるコーディネーター、患者の家族と医療者をつなぐメディエーターら専門家の育成も課題だ。 経験豊富な施設が他の施設にノウハウを提供し、臓器提供時に経験者を派遣するなど連携が始まっている。こうした取り組みを広げたい。 脳死になった人の意思が分からず、家族が臓器提供を承諾したのは脳死判定例の8割近い。予期せぬ判断を求められる可能性は誰にでもある。日頃から身近な人と話し合っておきたい。

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