【「ブルー・バイユー」評論】アメリカの移民法に引き裂かれる韓国系移民と家族の物語を、小さな名優が支える!

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アメリカは多くの移民たちにとって、けっして夢の国なんかじゃない。移民問題がいま、さまざまな波紋を呼んでいる。韓国系アメリカ人のジャスティン・チョンが製作・脚本・監督・主演作「ブルー・バイユー」で描くのは、アメリカの非情な移民政策によって引き裂かれていく、ある家族の物語。 韓国で生まれ、3歳のときに養子としてアメリカ南部に引き取られたアントニオ(チョン)。看護士のキャシー(アリシア・ディキャンベル)と結婚し、幼い連れ子のジェシーと3人で貧しいながらも幸せな家庭を築いている。キャシーが妊娠し、タトゥーアーティストとしての収入では不十分だと思った彼は職を探すが、窃盗の前科もあってうまくいかない。そんなとき、ジェシーの父親である警官のデニーとの一悶着で逮捕されたアントニオは、30数年前の養子縁組書類に不備があったと告げられ、国外追放命令を受けてしまう。 '80年代~'90年代に韓国から養子として渡米した多くの移民たちが、似たような憂き目に遭っているという。それを知ったチョンは彼らの悲劇に思いを馳せ、ごくパーソナルな、感情に訴えるやり方でドラマを構築した。16mmフィルムで撮影されたホームビデオのような映像に映し出されるのは、アイデンティティに悩みながら懸命に生きるアジア系移民の肖像。妻と義理の娘を心から愛し、このふたりからも深く愛され、なんとかこの幸せを守りたいと切望する男の叫びだ。 不器用な生き方しかできないアントニオのように、映画もときに不器用さを露呈する。デニーのキャラはブレすぎて戸惑いを呼び、その相棒はあまりにステレオタイプ。アントニオの浅はかすぎる行動にも「?」が浮かんでしまう。度々登場する、青い水の中に浮かぶ幻想的な回想と独白のシーンも、癌を患ったベトナム移民女性との交流も、過剰な自意識とメロドラマ性を感じさせるだろう。でも一方で、この不器用ささえも「愛しい」と思わされてしまった。 それは、生まれてくる赤ん坊にアントニオの愛情を取られてしまうのでは、と恐れるジェシーと、父親としてのアントニオとが一緒に過ごす時間があまりに美しかったからだ。共感できるかどうかは、キャストに依るところが大きいとつくづく思う。ディキャンベルの存在と演技がアントニオの舌っ足らずな人物像に絶対の説得力を与えている(彼女の歌う「ブルー・バイユー」は心に響く)し、なんといってもけなげで、ディキャンベルの娘にしか見えないシドニー・コウォルスケ! 彼女が見せるラストの演技に涙を流すなというのは無理な話。小さな名優が、映画の「訴える力」を支えている。 (若林ゆり)

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