埼玉ふじみ野市立てこもり発砲事件と医師法 医師は患者を選べないのか【「表と裏」の法律知識】

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【「表と裏」の法律知識】#120 先日、埼玉県ふじみ野市の民家で立てこもり事件が発生し、人質となった医師鈴木純一さんが犠牲となりました。事件を起こしたのは、鈴木医師の元患者の息子である渡辺宏容疑者です。 渡辺容疑者は、鈴木さんらに対し、「線香を上げてほしい」と自宅に呼び出し、死後1日以上が経過した母親の心肺蘇生を要望したところ、鈴木さんが丁寧に説明をして断った後、散弾銃を発砲したようです。また、渡辺容疑者は過去にも複数の病院との間でトラブルを起こしていたという事情もあるようです。 同じような事件として、精神科医のクリニックが狙われた大阪・北新地ビル放火も記憶に新しいと思います。 医療の現場での医師とのやりとりは、時に感情的になってしまったり、治療方針や結果に対する恨みが生じたりすることもあるでしょう。 このような患者さんやその遺族とのやりとりに医療現場の方々は心身をすり減らしているのだと思います。そして、医師も人ですから「この患者さんの治療はしたくないな」と思うケースも少なからずあるのではないでしょうか。 しかし、医師法はそれを許してはいません。医師法19条1項には「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められており、医師にいわゆる「応召義務」を課しています。相手を選ぶ自由を奪い、応召義務を課しているのは、医療の公共性、生命身体を救護するという医療の特殊性などが理由です。応召義務違反には刑罰はありませんが、「正当な事由」がないのに応召義務に違反した場合、医師に対して損害賠償義務が課されたこともあります。そのため、医師は「正当な事由」という高いハードルにより、実際は診断を断ることができないのです。 しかし、今回のような人たちが少なくないわけですし、コロナ禍での医療関係者の活動を見ていても、医師に応召義務という多大な負担だけを課しながら、危険にさらされる事態を予防し、その対処を行う措置が一切講じられていないのはアンバランスだと思います。医師法の「正当な事由」の範囲をより明確にすること、さらに十分な安全措置を国が講じる必要があるのではないでしょうか。 (髙橋裕樹/弁護士)

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