今回ばかりは思惑が外れ、「不起訴」とはならなかった。 野球部の合宿で利用した岡山県の旅館の宿泊代を偽って申請し、国から「GoToトラベル」の給付金79万1000円をだまし取ったとして先月、大阪府警富田林署と刑事特別捜査隊に逮捕された大阪偕星学園高(大阪市生野区)元監督の山本セキ(53)と同県津山市の旅館「文乃家」経営の吉間俊典両容疑者(54)。大阪地検は1日、2人を詐欺罪で起訴した。 吉間容疑者は山本容疑者の中学・高校の同級生で、地元の津山市旅館組合の組合長だった。2人は本来1泊8000円の宿泊費を2万円と偽り、給付金を申請、113人分を着服していた。部員に対するわいせつ事件で昨年、起訴された野球部の元コーチ、水落雄基被告(31)が、山本容疑者の指示で給付金申請をさせられていたことを洗いざらいブチまけ、2人の犯行がバレた。 山本容疑者は2011年、野球部監督に就任。他校に進学できなかった問題児を鍛え上げ、15年、就任4年目にして、同校野球部を初の甲子園出場に導いた。 強豪校の仲間入りを果たし、世間から「熱血監督」ともてはやされる一方、金絡みの悪い噂が後を絶たなかった。 ■12年前の保険金詐欺は不起訴 山本容疑者が岡山県の私立倉敷高の監督だった2010年、野球部が使用していた中型バスが校内の駐車場で事故に遭った。山本容疑者は修理中の代車として使っていた自分名義のバスを架空の会社から借りたように装い、代金47万円を保険会社からだまし取ったとして、県警に「保険金詐欺容疑」で逮捕されている。 「それで倉敷高をクビになり、11年から偕星に来たんやが、こっちでも怪しいことはなんぼでもあった。マイクロバスを修理に出すときは大阪ではなく、わざわざコーチに岡山の知り合いの修理工場まで持っていかせ、そこから四国に渡り、別の知人に代車を借りて大阪に戻ってきとった。飲みに出掛ける時は、深夜でもコーチに車で迎えに来させるなど、とにかくセコイ。保険金詐欺に関しても、本人は『誤認逮捕や』と言い張っとったが、21日間の勾留中、ダンマリを決め込み、嫌疑不十分で不起訴になった。その後、『不当解雇が認められた』言うて触れ回っとったけどな」(学校関係者) 山本容疑者は昨年3月、大阪偕星学園高を辞職。4月からかつてクビになった倉敷高に戻っていた。辞職の表向きの理由は、水落のわいせつ事件の責任を取ってということだったが、実際は給付金詐欺に気付いた学校側が事件が明るみに出る前に、山本容疑者に自ら退職するよう迫っていた。 前回逮捕時、知らぬ存ぜぬを貫き通し、不起訴になったからか、山本容疑者は調べに対し、当初は黙秘を続けていた。 「地方と比べても府警の取り調べはキツい。そんなんで逃げ切れるほど甘ないし、府警をナメとったらアカンわ。普段から極道や凶悪犯をガチで相手しとるんやから。前回、起訴に持ち込めへんかったから、同じ轍を踏まんよう徹底的に調べ上げ、証拠を固めたようや。“ド素人”がいくら黙秘を貫こうとも、取調官は口を割らせるプロ。さすがに観念したんちゃうかな」(捜査事情通) 相手は高校生のガキンチョとは違う。今回ばかりは言い逃れできない証拠を突きつけられ、強面監督もグウの音も出なかったようだ。