1月28日、埼玉県警東入間署は母親の在宅診療を担当していた医師の鈴木純一さん(享年44)を散弾銃で撃った殺人未遂容疑で渡辺宏容疑者(66)を逮捕した。 「渡辺容疑者は27日、『(亡くなった母親に)線香を上げに来い』と、鈴木さんらスタッフ7人を電話で自宅へ呼びつけました。前日に鈴木さんが母親の死亡を確認していたにもかかわらず、『心臓マッサージをして蘇生させてほしい』と要望。断った鈴木さんに散弾銃の引き金を引いたのです。 その後、渡辺容疑者は11時間にわたって立てこもりましたが、翌朝8時に県警が突入。逮捕に至りました。その後、鈴木さんの死亡が確認され、殺人容疑で送検されています。『母が死んでしまい、この先、いいことがないと思った。先生やクリニックの人を道づれにして自殺しようと考えた』などと供述しています」(全国紙社会部記者) 渡辺容疑者が母と埼玉県ふじみ野市にある家賃5万2000円の一軒家に引っ越してきたのは’19年3月のこと。生活保護を受けながら、自宅で母の介護をしており、近隣住民との関わりはほとんどなかったという。 「越してきてから3年の間、家の外で見かけたことは一度もありません。渡辺さんの生活は母親中心。午前中は母親の食事や排泄物の世話をしていました。私たちと話をしている最中でも、母親に呼ばれると飛んで行ってしまう。日当たりのいい部屋に母親のベッドを置いて、夜は母親の近くで寝ていたそうです」(渡辺容疑者の知人) 母親を心配するあまり、病院で問題を起こすことも少なくなかった。渡辺容疑者が10年間、母親を通わせていた病院の関係者が打ち明ける。 「診察の順番を待つ間に『(自分の)母親を先に診ろ』と待合室で騒いだり、長文の抗議文を送ってきたり、トラブルだらけの人物でした。『この薬を出してほしい』と薬品名を指定してきたこともありました。『患者さんのことは医者が一番わかっている』と言っても納得してくれず、対応に困っていました」 鈴木さんと渡辺容疑者の間に溝が生まれたのは、「母親の診療を巡って意見が食い違ったことがきっかけだった」と地域医療相談室の担当者が語る。 「昨年1月から15回、渡辺容疑者の相談を受けました。『母親が食事をしない。排泄がない』という内容です。『もう90歳を超えているので、それは終末期が近い』と伝えても、渡辺容疑者は『最後まで診てほしい』と聞く耳を持たない。鈴木先生はお母さまの体調を考えて、無理な投薬は勧めていませんでした。 鈴木先生が身体になるべく負担をかけないことを第一に考えていたのに対して、渡辺容疑者はどんな手を使ってでも延命させたかった。渡辺容疑者から最後に電話があったのは事件3日前。母親の介護の相談でした。普段と違う淡々とした声でした」 担当者に最後の相談をした24日の夕方、近隣住民は渡辺容疑者が自宅アパート前で絶叫している姿を目撃していた。 「頭をかきむしりながら、『あー! なんでだよ。クソが!』と叫んで、同じ道を行ったり来たりしていました。民家の塀などを蹴ったりもしていました。隣を通り過ぎようとしたら、顔を真っ赤にして私と子供をニラみつけてきたんです。『すみません』と反射的に謝ったら、『早く行けよ!』と怒鳴りつけられたので、逃げました……」 鈴木さんが勤務していたクリニックには事件後、多くの地域住民が献花に訪れていた。鈴木さんは都内にある自宅にほとんど帰らず、一人でも多くの患者を救おうとしていたのだという。 『FRIDAY』2022年2月18号より