早貴被告の近影を狙って…一周忌法要の会場を下見【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】

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【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】#143 「へえ、早貴は二度と田辺には来ないって言っているんですか。逮捕されたら田辺の留置場暮らしになるし、どっぷり住むことになるでしょうにね」 皮肉たっぷりに言ってやった。 「そうやな。それがいつになるのか心配やけど。一体警察は何をもたもたしているんや」 「ボクも同じ気持ちですよ。早く逮捕されて運ばれてこないですかね」 実際に逮捕されたのはこの会話の2年ほど後だ。 「お墓も作ったし、一周忌をすればこれで田辺に来るのはおしまいという気分なんやろが、そんな簡単に逃げさせるわけにはいかないのや」 野崎幸助さんの会社で番頭格だったマコやんは、早貴被告の代わりに葬儀社と折衝して墓地を見つけて墓石の相談にも乗るなど、相当苦労をしていたらしい。 私は一周忌に際し早貴被告の近影を押さえ、Fさんへの過払い金返還の不正を問いただすのを目的にした。Fさんに直接談判したのは早貴被告の弁護士であるが、合意書には代表取締役として彼女の署名・押印がされていたからである。 私が警察だったら事件解明の突破口にできる事案になると考えたのだろうが、ドン・ファン殺害という本丸の証拠をある程度固めないと別件で逮捕という手を使えない。そもそも最近は批判を恐れて別件逮捕をやらないと耳にしていたので、期待感はそれほどなかった。 私は大阪のカメラマンのKクンを連れて前日には田辺に先乗りをして寺の下見を済ませていた。マスコミ嫌いの早貴被告は写真を撮らせないようにするだろうと予想ができたので、最初に隠し撮りで押さえてから近くで直撃撮影する作戦を立て、寺の周囲を歩きロング(望遠レンズのこと)で狙える場所を探した。 ■周辺の高級ホテルもチェック 法要は昼からだったので、前日に田辺市内で宿泊するのではないかと見当をつけて、周辺の高級ホテルの駐車場にドン・ファン名義で早貴被告が使用する白いベンツがないかもチェックした。若葉マークの頃から「運転の天才」と自称した早貴被告が東京から700キロを運転してくる可能性が高いと思ったからである。 当日は曇り空から小雨が時折降ってくる陰鬱な天気だった。私たちは法要が始まる1時間ほど前から、寺の入り口が見えるところに止めた車内で談笑していた。入り口には黒い喪服を着用し周囲に目を配っている中年の男女2人がいて、整理をするための葬儀社の関係者ではないかと推理していた。30分ほどすると、いかにもマスコミ関係者らしき人影がちらほらとしだし、なかには一眼レフカメラを首から下げているファンキーなヤツもいた。これではまるで「どうぞ警戒をして下さい」と相手に知らせているようなものではないか。 「どことどこのど素人たちなんだ、ったくもう」 せっかく隠し撮りをする手はずを整えていたKクンの怒りの心境は私も同じだったが、彼らに注意をするわけにもいかない。 「そもそも我々のように張り込みをするのが日常的なのが異常なのであって、警官よりもはるかに張り込みの時間が長い職業ってオレたちぐらいなものだって」 「そうかあ。オレたちが異端なんですね」 Kクンが苦笑した。 =つづく (吉田隆/記者、ジャーナリスト)

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