強豪校野球部指導者が「給付金不正受給」で逮捕されるまで

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’15年夏に大阪偕星学園を甲子園初出場に導き、熱血漢で知られた山本セキ容疑者(53、現・倉敷高校監督)が1月12日までに逮捕された。容疑は、政府の観光支援事業である「GoToトラベル」キャンペーンを悪用した給付金の不正受給。’20年8月に岡山県津山市で実施した強化合宿を1泊7000円のところ、2万円と偽(いつわ)って観光庁に申請し、のべ113人分の給付金約80万円をだまし取った疑いだ。 詐欺の舞台となった旅館「文乃家」の経営者で、山本と中高の同級生である吉間俊典容疑者も逮捕されている。 山本容疑者は’10年まで、倉敷高校の監督を務めており、保険金詐欺で逮捕され懲戒解雇となった過去を持つ。20日間の勾留後、起訴猶予となり、不当解雇が認められた。’11年からは大阪偕星学園で指揮を執っていたが、昨年、元コーチの球児に対するセクハラ行為が発覚し、その責任を取って辞任すると、4月からは再び倉敷に戻っていた。 「セキは甲子園に出場したことで人が変わってしまった」 そう話したのは古くから山本容疑者を知る野球指導者だ。 「深夜0時を過ぎるまで選手の練習に付き添い、自らマイクロバスを運転して遠征していた。倉敷時代も偕星時代も、プロ野球選手を育てて、技術指導も確かだった。ところが、甲子園に出場し、破天荒な監督として有名になると、態度がだんだんと横柄になっていった。大阪府富田林(とんだばやし)市のグラウンドでの練習試合中はベンチには座らず、バックネット裏にソファを置き、ふんぞり返って指揮を執る。 最後の夏の大会で敗れると、『○△のせいで負けた』と名指しで選手を批判し、卒部式になってもまだその話を蒸(む)し返す。普通は『勝ったら選手のおかげ。負けたら監督のせい』が野球指導者として当たり前の姿勢だと思いますが……」 筆者の元にもかねてより「二度と練習試合をしたくない」という他校の監督からの悪評が届いていた。偕星の選手のマナーの悪さも指摘し、山本容疑者の指導・管理能力を問うていた。 家族を故郷の岡山の自宅に残し、偕星の寮に住み込んで指導に当たっていた山本容疑者だが、ある野球部関係者によると「これまで2度、選手から練習をボイコットされたことがある」という。 「1度目は’17年8月。選手が寝静まったあと、山本監督が女性を寮に連れ込んでいたことが発覚した。『人間性がプレーに表れる』が口癖の監督の人間性を当時の2年生が信じられなくなり、練習をボイコットした。その時は生徒の不祥事も発覚し、うやむやになってしまいました。 2度目は’20年秋。ハードな練習を課され、指導方針に不満を持った選手が声をあげた。ところが、教員のコーチと外部コーチの”行きすぎた指導”として処理され、両コーチが野球部を離れることで問題は収まりました」 ◆コーチを盾に責任逃れ ’19年からは学校の授業を持たず、選手勧誘に力を入れるようになり、練習に顔を出さない日も多くなった。 「かつては自分の納得がいくまで続いた夜間練習も、早い時間帯に切り上げることが多くなった。監督の練習を手伝った者は皆、一度も監督から食事をおごってもらったことがありません。コーチに車を運転させて外出することも多かったのですが、その際にかかる高速代などもコーチに支払うことはなかった。とにかくケチで有名でした」(同前) コーチらを手下のように動かし、何かしらの問題が起きて自らに火の粉が飛びかかりそうになると、コーチらを盾に責任を逃れる。それゆえ、偕星野球部ではコーチが長続きしないことが多かった。 1泊7000円の宿舎に2万円で泊まったと申請した今回の容疑でも、保護者の負担はわずか2000円で、野球部に”被害者”がいない巧妙な手口で、国から給付金をだまし取ったとみられている。 純粋に甲子園の王者を目指し、サインを求められれば「教え子皆我が子」と書き記していた男は、甲子園出場後、カネの亡者と化してしまったのだろうか。 『FRIDAY』2022年2月4日号より 取材・文:柳川悠二 ノンフィクションライター

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