21年10月、不動産系スタートアップのBluAge(ブルーエイジ、東京・千代田)が自社の2022年卒内々定者47人の内、21人に一方的に内々定の取り消しを行ったことで炎上し、世間を賑わせた。BluAgeは11月4日に自社ホームページで「弊社新卒採用手続に関するお詫びと対応について」と題した文書を公開し、内々定者から最終選考で10月2日に内定者を決定したと弁明。内々定取り消しによる炎上の火消しを急いだ。だが、多くの企業では、翌年4月入社予定の新卒社員の内定式を10月1日に執り行う。その翌日以降に内々定者に非情な通告をする点で、「内定取り消し」と騒がれても仕方ない部分はあるだろう。 ちなみに「内々定」と「内定」に違いはあるのかというと、裁判の判例としては内々定と内定はともに「労働契約が成立している」と見なされるケースもある。これについては後述する。 学生にとっては、長期間にわたって就職活動に膨大な時間を費やし、やっとの思いで手に入れた企業からの内定だ。こういった悲しい事件を繰り返さないために、新卒採用に取り組む企業が考えるべきことはなんだろうか。 ●「内定」で変わる企業と学生のパワーバランス そもそも、内定取り消しとそれに続く炎上という問題の背景には、ミクロとマクロの2つの原因があると考えられる。 まずミクロの側面だが、これはおそらく採用担当者と学生のコミュニケーションや認識に大きな乖離があった、信頼関係を築けていなかったという点にある。採用活動において、選考中と内定後では、企業と学生のパワーバランスが逆転する。 内定とは、正確には「始期付・解約権留保付き労働契約」という。わかりやすく言うと、この時点で企業と学生はれっきとした労働契約を結んでいる。 「始期付」というのは、実際に働き始めるのが卒業後ということ。「解約権留保付き」というのは労働契約の解除がありうる、ということである。ただし、解約権留保付きといっても内定取り消しは労働契約の解除、つまり、「解雇」にあたるため、妥当な合理的理由がなければ難しい(労働契約法第16条より)。 例えば、学生が刑事事件で逮捕・処罰を受けたり、単位が足りずに大学を卒業できなかったりした場合は内定取り消しが妥当だと認められることが多い。このように内定=労働契約であることを踏まえると、企業は一度内定を出した後にこちらからそれを正当な理由なく一方的に取り消す(解雇する)ことはできないが、学生側は内定を辞退する(退職する)ことはできる。 選考のフェーズでは、学生を選抜する立場である企業の力が強い一方、内定後はそのパワーバランスが逆転する。だからこそ企業は内々定出し・内定出しには慎重になるべきなのだ。 なお、内々定と内定の違いについてだが、判例的には内々定も、内定つまり労働契約の成立と評価できる場合が多いのが実情だ。内々定前後のやり取りで、学生側に採用されるのが確実だと期待を抱かせながらも内々定を取り消した場合などには、労働契約締結過程における信義則違反とされ、企業側に賠償責任が認められる。 むろん、選考中のパワーバランスに甘んじ、学生の評価を「上から目線」で行っている企業は、内定後に痛い目を見ることになる。選考中は「見定めてやろう」という態度で接してきた採用担当者が、内定した途端にすり寄ってくるようになれば、学生も白けてしまうだろう。だから実際には選考中であろうと、企業は学生を選んでいると同時に自分たちも学生から選ばれているものと考え、フラットで丁寧かつ誠実に接しなければならない。 万が一、内定を取り消さないといけないような不測の事態が起きたとしても、一方的に通知するのではなく、1対1で丁寧なコミュニケーションを取り、内定を取り消さないといけない可能性があることをできるだけ早期に相談しつつ、自社の責任としてその後の就活を全力でサポートする(自社とつながりのある企業への紹介など)姿勢を見せていれば、BluAgeの件もここまで炎上しなかったかもしれない。いずれにおいても最後は両者の間の信頼関係が重要なのだ。 世の中には機械的に大量の内定を出す企業も多い。ある飲食大手では、選考中の学生との接触回数も1回のみで、内定も数十人へ一斉にメールで通知をしていたが、やはり「軽く出す内定には学生側の反応も軽い」のだ。一度内定を承諾した後の辞退も多いと聞いた。それにもかかわらず企業側では一度出した内定は断れない。自社の切り札をそんなに簡単に出してしまってよいのだろうか。