軍事技術情報流出…経済安全保障とどう向き合う

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神奈川県警は昨年9月、組織改編を行い、それまでの外事課を外事1課と外事2課に分課した。テロリストへの対応を目的とした2課に対し、1課は国内の先端技術が海外に流出することを防ぐ「経済安全保障」の強化を主軸とする。岸田文雄内閣の重要課題でもある経済安全保障。同県内では昨年、日本人が軍事技術情報をロシア側に流出させていたという事件が明るみに出ている。こうした脅威に、同課はどのような対策を講じているのだろうか。 ■先端技術の集積地 本題に移る前に、昨年6月に発覚した事件を振り返っておきたい。過去に調査会社を営んでいた70代の無職男性は、令和元年7月に文献情報の複写・提供を行うデータベースサービス会社に登録し、同社から軍事偵察のためのレーダー、宇宙開発に必要な半導体などに関する文献などのコピーを入手する。 これらはいずれも在日ロシア通商代表部の40代ロシア人職員の求めに応じて行われたもので、男性は約30年もの間、ロシア側から現金や飲食の供与を受ける見返りに同様の行為を繰り返していた。県警は男性を逮捕し、職員を書類送検。結果的にいずれも不起訴になったが、県警の捜査によって日本国内でのロシア側のスパイ活動の一端が明らかにされた。 「われわれは、この事件を氷山の一角と捉えている。『経済安全保障』とは新しい概念だが、類似の事例は以前からあった。引き続き、情報収集に努めていきたい」 そう話すのは、木村悠太外事1課長だ。昨年の事件は軍事技術という国にとっての「直接的な脅威」が海外に流出していた例だが、経済安全保障という言葉は「国の経済発展や国民生活の安定を確保するため、他国などからの脅威を排除すること」を意味しており、同課が注意を払う分野は多方面にわたる。 例えば、自動車や半導体、その他さまざまな企業がR&D(研究開発)の拠点を置く横浜みなとみらい21地区。日本の先端技術の集積地ともいえ、裏を返せばそれだけ他国の脅威にさらされやすいともいえる。 ■情報流出者の特徴 「諜報機関などに対する捜査と並行して、現在はこうした先端技術を持つ企業など『被害者になりうる立場』の人々に、彼らがどのように近づいてくるかなど、その危険性を情報提供して事件を未然に防ぐ活動を主に行っている」(木村課長) 現在、県警は自身が事務局を務める形で、産学官(産業、学術機関、行政機関)と連携し、企業の情報流出を防ぐための相互協力ネットワークを構築。活動の一例として、平成30年12月からは不定期で「SEAGULL通信」という広報紙を発行し、注意をうながしている。 昨年12月に発行された同紙では「産業スパイの『魔の手』はすぐそこに!」とのタイトルで、企業内の機密情報が海外に流出する際の具体例を紹介。生々しいのが、情報を流出させる人物の特徴を示した〝ポイント〟だ。 それによると、彼らは日本企業に勤務、あるいは勤務していた経歴があり、かつ「借金により生活が困難」「会社の待遇に不満」などの動機を持つことで、自分の行為を正当化しながら秘密を社外に持ち出す、とある。このため①退職する社員などからは秘密保持契約書を徴収する②社内に相談窓口を設ける-などの対策を講じることの重要性を訴えている。 ■20万社に注意喚起 木村課長は「もちろん、横浜みなとみらい21地区だけでなく、県内には小規模な町工場などの中にも海外に流出した場合、脅威となりえる独自技術を持つところが複数ある」と指摘。これまで警察官が直接、企業を訪問して講習会を行ってきたほか、商工会連合会など各企業が加盟する団体を通じて注意を呼びかけてきた。最終的に、県警のメッセージは県内約20万社に届けられているという。 経済安全保障をめぐっては、自民党が昨年の衆院選の際、党の公約の一つとして「戦略技術・物資の特定と技術流出の防止等に資する『経済安全保障推進法(仮称)』を策定する」(要旨)との方針を打ちだした。県警でも昨年9月の組織改編で、外事1、2課合わせて課員を計15人増員。さらなる体制強化を図っている。(宇都木渉)

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